Sunday, August 13, 2006

フカヒレ・スープとアメリカの環境派

私は以前から日米の報道のポイントの違いに関心を持っている。日本のメディアは、もちろん日本の読者にとって何が大事なのか彼らなりに選別して報道をするが、必ずしも、アメリカ側のライフスタイルやトレンドのニュアンスがうまく伝わらないことが多い。それは特派員の主たるバックグランドは、政治経済の専門家であることが多いからだと云う気がしてならない。誌面の制約と云うこともあるだろうが、そのようなところから、何となくすき間が発生していることを感じる。今回取り上げるフカヒレスープについても同じだ。日本の電子版の新聞を見たのだけれども、アメリカの環境保護団体が中国を中心としたフカヒレの消費についての攻撃については記事が出ていなかったので、ニューヨークタイムズ日曜付けの記事を簡単に紹介をしたい。

日本のシアトル・マリーナーズのイチロー選手に匹敵するのような国民的な英雄が中国の姚 明(Yao Ming)だ。姚 明は、アメリカのプロバスケットボールでは背丈が最も高い2.29メートルの超人。現在、プロチームのヒューストン・ロケッツで活躍している、NBAでは最も強いセンターとの評判の主。姚 明はアメリカの大企業のスポンサーを得て、テレビコマーシャルなどにも多く出演しているヒトなのだが、当然中国では、イチローを凌駕するほどのスポーツヒーローなのだそうだ。彼の穏やかで純真なイメージは多くのアメリカ人を魅了している気がしてならない。

アメリカでは、セレブが何か社会貢献のための活動をすることが、必須のような時代になっている。ボノのアフリカ難民対策、リチャードギーアのチベット解放、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーのアフリカの子供たち救済の活動は有名だ。アメリカのエネルギーを中心とした外交政策の批判をするジョージ・クルーニーあるいは、環境やエネルギー政策に重大な関心を持っているレオナルド・ディカプリオなどもいる。ハリウッドのスターたちを見ているとアメリカの「社会正義」がどんなことを考えているのかが窺えると云うのは面白い。

今回の姚 明の活用は、Wild Aidと云う自然保護団体がアメリカ国内向けだけでなく、中国向けに批判の矛先を向けたと云う点で特筆するべき案件だ。何せ、中国の政府や国民のライフスタイルに真っ向から批判するような発言を中国のヒーローにさせるのだから、驚かざるを得ない。それを引き受けた姚 明の中国での立場も微妙になって来よう。ただ、彼は、アメリカに来て、自国の自然破壊を感じていることだけは事実のようだ。フカの保護と云うのが、あるいは絶滅に瀕した動物保護全般の良いサポーターになっていく気がする。イチローが日本の捕鯨反対を言うようなものであり、やはりすごいことだと思う。

キャンペーンは、中国では昔ならば王侯貴族しか食べられなかったフカヒレスープが、中国経済の躍進と海での捕獲技術の飛躍的な発展で、大量に獲れるようになったことから原材料となるフカの乱獲が始まり、このままで行けばフカは絶滅するかも知れないという危機感から生まれた活動だ。中国でフカヒレ・スープでおもてなしをすると云うことは、最上のおもてなしとされているようだが、そのためにフカの乱獲を止めようとする活動は不発に終わってきていた。私もWild Aidと云う組織がどのような組織か知らないが、姚 明を引き出させた点は、活動を認知させるための大いなる成果だったに違いない。姚 明のコマーシャルは、タイトルにリンクをしている通りだが、これは象の保護を謳ったもの。

ニューヨークタイムズの報道を見る限り、姚 明が当局からにらまれたり、あるいは国民から無視されたりするリスクまで冒したこの案件だが、中国のメディアはほぼ黙殺に近い状況のようだ。フカヒレスープは中国国民にとっては、贅沢の象徴としてはなくてはならないものらしい。今後のこの象徴的な王侯貴族の料理が、自然とのバランスでどのようなことになるのか関心がある。昨日は、アメリカのガソリン依存症がなかなか変化できないと云うことについて書いた。中国ではフカヒレらしい。このように、ライフスタイルを変えていくのは難しい。それによって地球の環境はどんどんと悪くなっていくのは困るものだ。一人でも多くの人が、人間中心の考えからから脱却できるように、引き続き啓蒙し合いたいものだ。今日の昼飯は中国料理を食べにいくが、もちろんフカヒレ・スープはたのまない。

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