Sunday, June 28, 2009

オバマ政権の自動車政策は?

バラク・オバマが大統領に就任をして5ヶ月が経過をした。まだアメリカ経済は、景気後退のどん底から這い上がったとは言えないかもしれないが、羅針盤無く進んでいたブッシュ政権末期に比べるととても経済が安泰をしている気がする。外交的にも、希望を旗印に進んできたオバマ現象は、アメリカを超えたところでも、好印象を持って迎えられ、カイロでのイスラム世界への演説でも見られるように、亀裂がかっていたイスラム世界との関係にも修復の兆しが見られるようになった。この好転換は南米もしかりだし、大方オバマ旋風は世界の至るところで吹き荒れているようだ。

オバマ政権が、取りかかっている国内、海外の重要政策案件は多い。基幹産業である自動車の問題も、規模としてははなはだ大きい問題ながら、オバマ政権が抱え込んでしまった、諸案件の中では比重が小さく見られるようになったことはあまりにも皮肉だ。もちろん、自動車産業が集中している、ミシガン、オハイオなどの州では、ことのほか大きな政治的な課題だろうが、アメリカが抱え込んでしまった広範でしかも深刻な問題からすると、国内自動車政策重点施策の序列を下げられてしまったことは、致し方ないことだと思える。オバマ政権が、単に彼を推した民主党や労働組合の票を意識した動きをするのではなく、アメリカの根本的な病根を取り除こうとしている動きにはただただ、敬服に値する。日本の政治家でも、このように、派閥や産業などの圧力に揺さぶられることなく、長期的な視野を持って、国造りをして行こうとする姿勢には感銘を覚える。

私は、ボールダーに移る前、14年間にわたり経営破綻をきたしたGMに奉職をした。トヨタとのカリフォルニアでの合弁交渉やスズキ自動車とのカナダでの合弁交渉に関わってりした。直接にサターンとは関与をしたことはないが、GMの小型車戦略や日本戦略などに深く関わった。GMは完全な破産をしている訳ではないが、このように経営的に破綻をした背景には、同社のトップの判断の見誤りも多くあるが、歴代のアメリカ大統領がエネルギー政策を軽んじてきたことにも大きく影響されていると思う。オバマ政権に先立つ、ブッシュ政権は、ブッシュ大統領とチェーニー副大統領が石油産業出身であること、あるいは、遡り湾岸戦争を展開したブッシュ前大統領(父)も石油産業出身者だと考えるとアメリカの石油外交が利権と関わっていたと見られてもおかしくない面もあろう。癒着があったかどうかは別としても、キナ臭い感じがするのは間違いない。ただ、ここでその問題を取り上げるつもりはない。

先週、下院はオバマ政権のエネルギー法案を可決した。まだ、上院での可決が残っているので、確定的なことは言えないが、オバマ政権がエネルギーを一つの大きな政策目標にしていることを考えると、この法案が、通過した後でのアメリカがどうなるのか、触れてみたい案件だ。私はGMの経営破綻の原因の一つにアメリカ政府がエネルギー政策を軽んじたことも大きく影響していると書いた。つまり、アメリカ政府は、世界的なガソリンの価格状況をまったく無視するような形で、「ガソリンの消費抑制」を目指すどころか、GDPの最大構成要素である「個人消費」を煽ろうとしていた気がする。景気を良くしておくことで、国民の支持を得ようとしていたのだろう。大型トラックに対する相対的な税制優遇などは、市場をいつの間にかRVなどを中心としたトラック市場に仕立て上げてしまった。建設や農作業などに使われるべき悪い燃費のトラックが一般市民の日常の足となってしまった。ロハスのメッカのボールダーでさえ、アウトドア指向と云う言い訳で、不要な超大型車が売られたのだ。アメリカの東海岸、西海岸は別として、中央部の全体におけるトラックの販売台数は昨年のガソリンパニックのときまで続いた。トヨタ自動車でさえ、テキサスにアメリカのGMやフォードを凌ぐようなTundraを生産しはじめたのは、トヨタの意向と云うよりは、政策的に大型車を販売するメリットが大いにあったからに他ならない。

オバマ政権は、ガソリン税や小手先に惑わされることなく、GMなどの国産メーカーの保護に打って出るどころか、GMのリックワゴナー会長を押し出してしまうような政策に出ている。経済的なインパクトを考え、会社を潰すようなことにはしていないが、省エネの方向に進まなければいけないようにがんじがらめに縛り込んでしまっている。インパクトがやや小さいクライスラーに至っては、イタリアのフィアットに好条件を与え、救済するようにしてしまった。フォードだけは、航空機メーカーから社長を引き入れていたこととと社内の資金対策をとっていたことから、政府の援助の手を求めることをしなかった。私は、フォードは欧州フォードの開発力をうまく活用できたのに対して、GMはオペルを活用しきれなかったところに敗因がある気がする。外部からトップを引き入れていたのなら、省エネや小型化に大成功しているオペル車などを活用していただろうと見ているからだ。私はGMはミシガンの田舎企業と見ており、洗練されたオペルなどの欧州の製品を使いこなせなく、サーブも台無しにしてしまっている。

ここで自動車論議をしてもいけないと思うので、今後はどうなるかと云うことだ。オバマ政権が、新技術開発企業への補助として補助金をしたのは、フォード車、日産、そうして電気自動車メーカーのテスラーモーターズだ。テスラーは、量産メーカーではなく、たかだが500代そこそこの販売実績に対して4億ドル以上の補助金を出すことにしているのは不可思議な点だ。オバマ政権は、配電のスマートグリッド化などを推進したり、風力発でなどの代替エネルギー推進に力を入れている。アメリカのバッテリー技術についてもIBMやGEなどが、新技術に力を入れはじめている。リチウムイオン電池を凌駕する新バッテリー技術開発も進められている。当然そのようなバッテリーは実験室段階だろうが、政府が重点施策をそこに移していることは、従来のガソリンエンジン技術の改良では済まない市場が生まれて来る気がする。

自動車のエピセンターはミシガン中心だが、新技術の発祥の地はまだ、ばらついている。そのエピセンターが、IBM, GEあるいはシリコンバレーになるのかまだ定かでない。しかし、内燃機関を中心としたクルマの技術の時代は、オバマの出現で、大きく変貌するようになることだけ間違いではない。一時的に燃費を気にしていて小型車化することはあっても、新技術をベースに再度大型車は復活するだろう。オバマのアメリカは、脱化石燃料を打ち出し、経済の再生を目指しているようだ。このように、アメリカの大統領が、景気後退という、本来ならば、景気活性化をするようなときに、既存企業を潰してしまったとしても経済の基礎工事を打ち出したことはただただ驚くべきことだ。人口の減少や老齢化の進む日本の政治家が、一時しのぎの政策ではなく、基礎工事から経済再構築をして行ってもらえたら嬉しい。そのような政治家がでてきたら、日本の若者もYes, We Canで燃えてくれることだろう。