Friday, July 25, 2008

窮鼡フォード、巻き返しで踏ん張れるか?

デトロイトのビッグスリーがアメリカ市場で大苦戦をしていることを知らないアメリカ人はいない。しかし、80年代のようにデトロイトが可哀想だと云うアメリカ国民の意識は少ない。日本の自動車メーカーが対米投資を相当なレベルで増やしてきたので、日本車叩きは聞こえ無いどころか、日本車に対する需要も注文待ちと云うように引きが高い。日本のメーカーが賢かったのは、投資先州を分散することにしたので、各州に大規模投資をし、就職先を作った日本の自動車メーカーは、各州の上院下院の議員と強い絆を築いてしまっている点だろう。もはや、ワシントンでジャパンバッシングをしようとしても難しくなってしまったのだ。

このように投資の問題だけでなく、日本側の車種構成がアメリカのクルマのニーズシフトにピッタリだったことも大きな要因だ。しかも、近年、トヨタのプリウス、ホンダのシビックのようなハイブリッドで市場に先駆的イメージを植え付けるのに成功していることも忘れてはいけない点だ。その上、トヨタ社(ヤリス)、ホンダ社(フィット)、日産社(ベルサ)などは、韓国勢の躍進を少しでも歯止めするということで、より若者向き、より小型、より燃費効率の良いクルマの導入を怠ってこなかった点が、幸運だったものだ。上を狙うだけでなく、後方にも眼を配るやり方は戦略的に正しかったと言える。最近では、ホンダ社がフィットのハイブリッド化することが噂されているので、たのしみなことだ。

アメリカのビッグスリーはどうかというと、大型のSUVの収益率が高かったために、SUV薬物依存症のように小型車転換の政策が取れずに石油価格が上昇するたびに売り上げを落として行った経緯がある。私はビッグスリーの中の一社に長いこといたので、デトロイトの見方はよく理解できるが、不可解だったのは、ヨーロッパで小型車などを多く取り扱い順調なフォードやゼネラルモーターズ(欧州ブランドはオペル)が何故アメリカにそれを投入しないのか、と云うことだった。GMなどは、サターンなどのブランドを使い、最近ではオペル車をベースにしたクルマをアメリカ市場に投入し始めているが、サターン自体が売り上げがあまり伸びていないので、GMも欧州車投入を本格的に検討をしなかったのだろう。

しかし、窮鼡となったフォードは(窮鼡と言っては失礼かも知れないが)、やっと重い腰を挙げ、新たな動きを始めようとしている。その背景には、トップにもと航空機メーカーのボーイング社のマラーリ氏を社長に登用したからに他ならないと思う。「外部もの」を使うことで、デトロイトにやっとNIH症(Not Invented Here syndromeは排他的な行動のことを言う。自分が設計デザインしたものでなければ採用はしない技術者の欠点とでも言うべきか)が無くなるきっかけができたようだ。売り上げが急減しているフォードとしては、早く体質改善を目指さなければ、長期的視点で見れば完璧に衰退することになりかねない。しかし、売り上げが下がっているとは言え、世界市場の中で見ると欧州フォード、ラテンアメリカフォード、アジアフォードは利益を上げているのだ。そこの体質をアメリカに持ち込めるのかにかかっている気がする。それを今までのデトロイト自社勢力(村体質的な)は認めていなかったものを、マラーリー社長は必死になって社内の幹部説得に動いているらしい。社外ものだっただけにできる発想かも知れない。

フォード社が発表しているところによると、「2010年から欧州ベースの小型車6モデルを使って小型車攻勢」をかけるという。ベースとなるのは欧州フォードのフィエスタ・モデルとフォーカス・モデルだが、現在アメリカの連邦規制に合うように調整を急ピッチで始めたという。

また、フォード社はSUVのエスケープなどのハイブリッド車2モデルを出しているが、2009年までには4モデルまで引き上げる予定だそうだ。12月には、大型トラックやSUVを生産している工場を小型車生産に転換し始めるらしい。また、フォード社は、現在のクルマのラインアップに使われているエンジンのほとんどのものをより燃費効率の良いものに切り替えか改善するかを始めており、2010年末までにはその作業は完成する予定とのことだ。
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一番大胆なのは、2010年までに、欧州フォードとの車体共通化は40%に引き上げ、2013年までにその共通比率を100%に引き上げると云う点だ。もちろん、欧州におけるガソリン価格はアメリカの価格に比べて倍以上しているので、それと同じベースにすると云うことは、フォード社の提供するクルマのラインアップの燃費水準はかなり改善されることだ。トラックをどうするかは詳しく述べられていないが、共通化については、トラックを除外し乗用車だけについて述べているのかも知れない。推移を見守りたい。トラックについては、業務用で人気のあるF150モデルは、次期世代のモデルを今年の終わりに出すが、燃費は7%向上しているという。

ここで、自動車情報を細かく書くつもりは無い。しかし、2番手のフォードが、このように動くことを発表すれば、ゼネラルモーターズも動かざるを得ないと思う。欧州フォードと同じく、欧州オペルを抱えているGMとしては、遅れを取らないためにも、似たような戦略に出てくる可能性が高いだろう。つまり、一挙にアメリカの新車モデルの燃費性能はかなり向上されることを予想させる事態だ。今回のガロンあたり4ドルのガソリン価格は、アメリカの不動産の貸し付け不況と相まって、相当な大型車を崇拝する自動車文化に風穴を開けたと言っても良いかも知れない。アメリカ人のエネルギー消費感覚についても、同様に大きなインパクトを与えたのは良いことなので、産業界がこのチャンスをどのように利用するのか、楽しみだ。昨日もオバマ候補がベルリンで演説を行ない、その中でも、地球温暖化に対応しなければいけないことを言っていた。ここ数年のアメリカのチェンジ(生まれ変わりとでも言いたい)は、窮鼡となったフォードのように大きなものになるとの大きな期待が生まれてきている。フォードのマラーリー社長は、標語として“One Ford, One Team, One Plan, One Goal.”(つまり、一つのフォード、一つのチーム、一つの戦略、一つの目標)を掲げている。オバマ候補が次期大統領なら、同じようなことを言うような気もしている。アメリカの経済は、不確定な時代に突入しているが、社会の大きな変動からの新たな価値観が生まれ、発展が可能になることだけは言えよう。

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