Monday, September 17, 2007

米証券取引委員会(SEC)-環境問題で新たな視点

米証券取引委員会は、米国の投資家保護の機関としてはとても重要な組織だ。投資家保護と云っても、機関投資家だけでなく個人の投資家も視点に入れた活動を行う団体だ。1929年の世界恐慌で信用が失墜していた証券市場の信用を回復する目的で設立されたものだが、現在その役割はさらに大きくなっていると言える。企業が証券市場で資金調達をする際にごまかしを許さない正義の味方と云えば正しいだろう。この米証券取引員会が、地球温暖化の問題で脚光を浴びつつあると云うことを知っている日本の人は少ないだろう。とてもアメリカらしい視点なのでここで簡単に紹介をしてみたい。

ワシントンポスト紙のSteven Mufson記者は、この米証券取引委員会が新たな役割を強いられるだろうと云うことを紹介している。忘れてはいけないことは、米証券取引委員会の役割は投資家の保護と云うものだ。そのために、各企業が業績発表を行なったり、資金調達をするときに出すリポートの中身についても目を光らせているのは、良く知られていること。公平さを保つために、発表の正確度、不正な呼び込みをさせないこと、インサイダー情報などの取締りも強く、メーカー、資金調達をしたい企業、金融機関に勤めている人にとってはかなり怖い存在だ。

ここで、地球温暖化の話になっていく。つまり、気候の変化などで業績などに大きな影響を与えかねない産業の一つに保険産業が上げられる。つまり、これまではハリケーンの発生が少なかったところで、徐々に気象変化によりハリケーンの数が増えたり、規模が大きくなったり、荒れ、変化する気象によって住宅や建物の被害が増える可能性がとても大きいからだ。ニューオーリンズがハリケーンカテリーナで大被害を受け、まだ、被害から回復していないことは良く知られていること。

ワシントンポスト紙が報じるところによると、全米の家8軒の内1軒を保険保証をしているAll State社が米証券取引委員会にたいして提出をしている345ページにもわたる財務報告(有価証券報告に類似した資料)については、気象の変化、地球温暖化、温室効果発生がスや二酸化炭素などについては一切触れていないと言う。また石油最大手のExxon Mobil社についても、ほんの簡単にしか触れていない。

地球温暖化が原因で発生しているとされている大きな気象変化について、投資リスクの可能性を公示開示する義務があるのではないかと云うことで、複数の州の財務長官や投資ファンドのマネジャーが米証券取引委員会に対して公示開示強化をするように規則を変更するように主張を始めている。もちろん、このような投資リスクの潜在性を公示したところでどのようになるか分からないが、投資家に対して保全をすると云う目的で、企業のおかれているリスクを洗い出させると云うことは、地球温暖化の議論をさらに一歩進めることになり、企業にとっても、新規投資を含む活動を行うときに新たに検討しなければいけない課題が増えたことになる。

この問題について、まだ米証券取引委員会は確固たる方針を打ち出していない。しかし、州政府や投資ファンドの要求が出たことによって、企業の中には自発的にこの問題を取り上げるところが出てきているようだ。現在電力メーカーの最大手で、温室効果ガス発生の最大手でもあるAmerican Electric Power社が、自らのガス発生と規制の影響で業績がどのように変わるかと云うスタディを行ない発表している。このような事例が、まだ、例外的な状況だが、投資家側の意見を聞き入れる、あるいはディスクロージャー(開示)することの姿勢を示す企業が徐々に出てくることが予想される。

オーガニック食品の産業でもそうだったように、消費者がグリーン企業への投資を強める趨勢は強まってこよう。アメリカのタバコ業界も消費者投資家に圧力をかけられたように、企業のグリーン度は売り上げや利益などとともに重要な選択の尺度になってきそうだ。個人投資家の思惑は、企業にとって油断ならない要素になってきていることだけは事実だ。米証券取引員会が、規則を変えるかは別として、アメリカのロハスの影響はここまで来たと言えよう。

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