Wednesday, December 03, 2008

転機を迎えたアメリカのエネルギー政策

二年近くも続いたアメリカ大統領選挙運動が終わり、オバマ候補が44代目のアメリカ合衆国の大統領になることが決まった。大統領選挙戦終盤戦において発生した金融危機はアメリカ金融界だけでなく、経済界、産業界などにも大きな影響を与え、その余波は世界経済にも及び、11月の半ばに世界20各国の首脳が対策を練るためにアメリカに集うことになった。しかし、任期残すところわずかのブッシュ政権は、各国首脳と新たな新政策を打ち出すことができず、各国との協調策をとるという声明文だけで終わった観がある。実際のところ、大きな政策の変化は2009年1月20日に就任するオバマ新大統領を待つということになったと言って良い。

オバマ新政権は、アメリカの大統領就任の歴史の中でも最も難題が多く、複雑困難な政策課題を抱えた状況で大統領に就任をすることになった。ビッグスリーの自動車問題への救済策を含めたアメリカの経済金融危機は言うまでも及ばず、イラクからの撤退、国民の健康保険問題、不法移民の問題、グアンタナモの捕虜処遇の問題、そうしてエネルギー環境政策などへの緊急な取り組みが求められる難しい局面にある。

エネルギー環境については、今年の夏頃にはエネルギー価格が高騰していたものが、経済金融危機に陥ったことで世界的にエネルギー需給関係が緩和され、一時的に原油コストが大幅に下がってしまっている。従来であれば原油コストが下がっているときに、エネルギー政策に政策のフォーカスがいかないところだろうが、まさに、エネルギー価格が下がっているこのときに、経済活性化とエネルギー政策を同時に進めようとする政策が打ち出されるのではないかとの推測が強い。大統領に選出されたオバマ氏が、就任後10年以内でアメリカの中東やベネズエラからの石油依存を無くそうと大きく公約しているからだ。

ビッグスリー経の公的資金援助の是非についても今週後半に上下両院で二回目の公聴会が開かれる。前回はコーポレットジェットで議会に乗り込み公的資金援助を求めてきたものの、その経費削減に対する繊細さがない無神経さを議会やメディアに叩かれ、公的資金援助を受けるのであれば、その資金でどのような企業の再生を行なうのか具体策を出してこいという強い指摘を受けて、今回は、具体的な再生策を準備して乗り込んでくることになった。コーポレットジェットで殿様の様相でお出ましでなく、今回は3人とも揃って各社のハイブリッドでデトロイトから運転してくると言う。クライスラーにもハイブリッドがあったのかと今になって知るような話だが、60%以上の人が支援に反対と言うから米国民にここまで見放されてしまったのかと感じると、3社の首脳も低姿勢でいかざるを得なくなったのだろう。

とにかく、2008年夏のエネルギーコストの急騰と秋口から本格化したサブプライムローンの破綻にはじまる大幅な景気後退は、いつものアメリカだったらエネルギー価格が急落してしまえば、エネルギー政策が無策になるところが、今回は未だかってない米国産業構造の大幅な転換のきっかけになりそうな気配だ。ビッグスリーは、これまで、利益率の高い大型のトラック系のクルマに販売の重点を置いてきた。小型車開発やハイブリッド、電気、水素自動車の開発をやっているのだが、本腰を入れていたというよりは、必要になったときに技術を持ち合わせていれば良いというような安心感があったのだろうか。労組側も、コスト削減につながるような譲歩は行なってきたが、経営側と労組共々ことの重要性に気がつかないようだったと言えまいか。しかし、ここへ来て、一時的であったにせよ、ガソリン価格がアメリカでは未曾有のガロン当り4ドルを超えたときに、地球温暖化などで多くの人々が謳ってきた省資源の課題に急に火がついたように市場が転換してきているようだ。大型車を売って利益を上げていたビッグスリーは、知らずのうちにアメリカのクルマ市場の50%を切ってしまっており、いつの間にか多くの国民に切り捨てられていたのだ。だから、今回の公的援助の嘆願にも関わらず、国民のサポートが少なくなっているのだ。アメリカ国民のエネルギーを見る目は、ビッグスリーよりも健全だったと言えるかもしれない。

石油資源の自給度が30%を切っており、70%近くの石油を多くの反米的なところから購入している事実を見せつけられた点も大いにアメリカの国民感情を揺さぶったと言って良い。地球温暖化については、まだ、大問題にしていない人も多い中で、中東、ベネズエラ、アフリカ、ロシアなどの産油国を潤し、勝手なことをさせてはならないという気持ちを持った愛国心強いアメリカ人も多いようだ。もちろん、今回の大統領選挙の公約でもグリーンエネルギーへの転換を標榜するオバマ次期大統領の方向性に賛同をする若い人、まっとうな人も多いのは事実。それらの複雑分子が結集することになり、アメリカのエネルギー政策を転換せざるを得ない勢いを作ったと言える。

世界の人口の4−5%の国が、エネルギー消費は25%近くにも達する異常さが解決するときになるのだろうか?少なくともかけ声は大きい。それが政策的にどのように変革するのか、オバマ次期大統領のエネルギー長官や人事を見てみたい。国家安全保障、経済のブレーンなども発表されているが、今後の人事発表は大いに期待しているところ。エネルギー政策とグリーンな雇用創出が一体化して来る可能せいもあり、アメリカの今回の経済金融危機は、改革のための障害ではなく、大きな起爆剤になったと言えるのではなかろうか。

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