Wednesday, July 30, 2008

暗礁に乗り上げた多国通商交渉とロハスの視点


WTOの多角的通商交渉(ドーハラウンド)が、合意に達することができずに、座礁したとの記事を読んだ。総括的な関税の引き下げという大きな目標を掲げての交渉を2001年から行なってきた各国政府関係者の失意は大きいかも知れない。私も長いこと自由貿易を展開することについて賛成の立場だっただけに、今回の合意に至れなかった背景がどこなのか、世界の貿易の基本は変わってきているのか、知りたくて、多くの新聞の報道を読み漁った。このブログの読者の中には、多角的通商交渉とロハスにどのような関係があるのか不可思議に思う方がいると思うので、少し今回の交渉の座礁について私が判る範囲内でまとめてみたい。当然、私はボールダーと云う辺境に住んでいて、交渉と関係ないのでとんちんかんなことを言うかも知れないが、各国の意思がまとめられなかった背景などについては十分に検証するだけの情報はありそうだ。

さて、今回の参加者の中でまとめる方向から逸脱したのはどうも中国とインドの存在が強いことが多くの論評で出ている。その中で、食糧自給や自国の食糧安全保障と深くかかわり合っているようだ。中国はこれまで輸出市場を求めて、自由貿易を強く標榜していただけに、その姿勢の変化は、中国にとっての石油などのエネルギーや原材料調達のようにゲオポリティックスの範疇からすれば、食糧自給も外せない大事なポイントと見直してきたことを示しているのだろう。中国が2001年11月にWTOに加盟をしてから、自由貿易原則を強く押し出してきていた。アメリカが、急増する中国からの繊維品などの輸出にセーフガード条項を発動して、アメリカ市場の生産者を保護しようとしたときなどについても大きく反発をしていた訳だから、その変化の意味は大きい。

今回のドーハラウンドの交渉において、中国もインドと同様に農産物などに関するセーフガード(輸入制限や関税の一時的引き上げを認める緊急避難の仕組み)を強く求めたらしい。アメリカなどの欧米諸国の中には、農業を保護しており、大規模農法や、機械化によって、生産性やコストは効率が良いので、国際的な競争力はめっぽう強いときがあるからだ。下手に、アメリカの農産物の輸入を完全に自由化すれば、国内農業は押しつぶされてしまう可能性もある。だから生産性がまだまだ低い中国やインドなどが、穀物メージャーの思いのままになりたくないと考えたのは無理からぬ話と見える。石油、工業原材料も海外依存度を高めている中国としては、食糧の依存度も高まることに警戒を強めたのは判る気がする。だから、話し合いは座礁してしまった。

今年は、5年おきに法案化されるがアメリカの農業法が通過したばかりだ。巨大な政府の補助金がアメリカの大手農業企業へ、直接間接に支給されて行く。自国の農業に巨大な補助金が出ているアメリカでも、途上国からの農産品に対してはかなりの関税をかけている事例がある。それなのに、アメリカが輸出するときは自由にさせろと云うのは強権を持つ者の奢りと言えなくもない。特に他国、しかも中国やインドのように準大国からして見ると、食糧安全保障が絡んでくると当然心配にもなろう。

一つの良い事例が、アメリカが自国のエネルギー自給を少しでも助けようと言うことで、突然にトウモロコシを使ったバイオエタノールの生産を奨励するようになり、バイオエタノールの生産メーカーに大量のインセンティブが回るようになったことから、世界の食糧市場に異変を来たし、基本的な穀物の市況は高騰してしまった経緯がある。悪意がなかったとしても、多くの国がこれによって消費者物価が高騰して甚大な被害を受けたのは言うまでもない。食糧の国家安全が維持されるのには、大きく懸念されるような案件であるのは間違いない。古い話になるが70年代のニクソン大統領のときも、豚の餌になっていた大豆が不作の時にニクソンは大豆の輸出を制限するような動きに出て、日本を驚かせたこともある。その際日本は、大豆の供給先をブラジルへ転換するなどの作業をせざるを得なかった。国家リスクを考えるとただ事ではない。

アメリカの行動だけが原因ではないが、天候やその他の事情で、世界的な穀物市況は高騰をしてしまっており、人口超大国の中国とインドが恐れを為している背景は理解できないでもない。輸入に頼るようになると云うことになると、エネルギーなども海外に依存している関係で、中国が神経質になったのは推察できる。

アメリカ国内でさえ、巨大穀物メージャなどに対する反発が強い。もちろん全ての消費者がそれを感じている訳ではないが、巨大資本が中小の農家を吸収合併してきて、農業が巨大産業化してしまっていることに対する懸念は強い。種子にしても生物多様性を無視したような形で、特殊な耐性を持つ種子の特許化に動いたりしているために、多くの農家の自由の幅がかなりきつく縛り上げられてきている。ファーマーズマーケットなどの動きが出てきているのも、よりローカルで生物多様性を維持しようと云う間接的な消費者の抵抗の印とも言える。

国家レベルでの国益などを考えた際は、確かに他国のことを先に考えるよりは、自国の利益を考えるべきなのかも知れない。しかし、交付金漬けの一部産業が、国益と称して輸出圧力をかけて行くのには、どこか抵抗を感じ始めているのは事実だ。地産地消の点からも、フードマイルの視点からも、あるいは巨大資本のコンベンショナル農法などにも問題がありそうだ。ドーハラウンドが今後どのように推移するか、見守って行きたいが、発展途上国や生物多様性などなど、今後の多国間通商交渉の中でもロハス的な議論がされてもおかしくない気がする。日本においても、自国の食糧自給問題が、取りざたされているが、どうも世界的な局面において、その声は小さい。日本の農業を守ること、日本の食糧安保を守ると云うこと、日本の環境を守ることで、日本の政府がとらなければいけない施策は多い。国民的な議論がより高まって欲しいものだ。

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