第二次大戦後、アメリカは豊富な国内石油資源をベースに未曾有な経済成長を遂げた。その原動力になったのは、もちろん、安価な国内エネルギー資源があったことが挙げられる。テキサス、カリフォルニア、ルイジアナ、オクラホマ、コロラドなど石油産出州があったことも大事だし、その後アラスカからも石油を引っ張ってくることができるようになった。しかし、国内の産出の限度を超えてアメリカの石油に対する旺盛な需要が続いてきた。2度のオイルショックや徐々に産油国の地政学的な状況が悪化し続けても、アメリカは石油麻薬に取り憑かれたように石油消費を高めていった。
冬になれば、家の中にいてもTシャツを着れるくらいに暖房を強くして、夏になると逆に何か厚手のものを着ないと寒くなるようにクーラーを効かせて来たアメリカだ。SUV(RV)なども、ほとんどの人がオフロード・ドライブをしないのにガス・ガズラーを買い続けてきた。アメリカ人男性の多くは大型トラックを買い求め続け、新築の家も床面積が光熱代の上昇を気にしないかのように広まり続けてきたのだ。郊外に大きな家を建て、遠くの仕事先までドライブ通勤をすることが日常だったし、お母さんたちは、ステーションワゴンの伝統を徐々にワゴン車に移り変わり、サッカー・ママとして子供の課外活動のためにあちらこちら運転手まがいの生活をしてきた。
世界の石油産出のピークが近い内に来るだろうと言われてきたのは、かなり古いことだ。しかし、最近では、需要側が、新生中国やインド高度成長市場、東欧市場などと相まって、生産国の多くでの政治的な不安、民族主義の勃興や欧米のオイル・メージャーの力が及ばないところ、環境への配慮などでも市場の変化は相当前から、安価な石油資源時代の終焉を示唆してきたできごとは多い。しかし、アメリカの消費者は、あるいはワシントンはこの問題に対して本気で対抗することをして来なかったと云える。テロの問題を口実に、現ブッシュ政権はイラク戦争を始めたのではないかと云うことも言われているが、ことの真偽は判らないにしても、ブッシュ大統領やチェーニー副大統領が元々石油産業出であると云うことを考えるとあり得ないことではないことを窺わせる。
なぜ石油価格がこのように急激に高騰したのか、定かでない点もあるが、いずれにしても供給の限界に対して、需要がますます旺盛に伸びていく背景から投機家が動いているという説も頷ける。でも、このように急激に高騰することは、アメリカ経済の根本を揺さぶることになるのは間違いない。元々、安価な石油資源を前提に出来上がっている経済だけに、住居の郊外型現象、ハイウェーでの交通渋滞、全米そこら中へのトラック輸送に依存する輸送網のアキレス腱、経済地域の専業化、広大な国土面積をカバーする航空、物流ネットワークなどなど、アメリカは突然大きな壁に突き当たり、その見直しが迫られてきている。
リスクの高い住宅ローン貸し付けによるサブプライム問題で、アメリカの住宅市場は冷えてきているが、その上に、これまで郊外生活を夢見てきた人々も、交通費が少ない都市に回帰する傾向が出ているようだ。大都会における公共交通網もこれまでにない勢いで電車やバス、あるいは地下鉄に人が眼を向け始めていると云う。バケーションのステイケーション(stay + vacationの合成語)になり、地元に近い観光地や活動地でバケーションを済ませようとしている人が増えてきている。もちろん、キャンピングカーなどは売れなくなってきているし、そのような従来のアメリカの居間、寝室、トイレを移動するようなドライブ文化は一部例外的な傾向となっていくことだろう。
スーパーではナショナルブランドよりも、フードマイレッジを気にして、地産地消、地元優先のような傾向が強まっていくはずだ。アメリカの三大自動車メーカーも、大型車に依存をしてきていただけに、販売、経営へのインパクトは大きく時間がかかる自動車開発だが、それを真剣に推し進めていかないと企業の存亡にも関わることになり、全ての大きなスケールでの変化になっていくだろう。面白いと思った点は、デンバーのヒッケンルーパー市長が最近日本を訪れたのだが、そのせいもあってか、デンバー市庁舎における「日本的クールビズ」を標榜し始めている。新聞にはクーラーの利用を抑えようというような社説も出てきたり、企業の在宅勤務などももっともっと奨励されてきたりしているのは、問題の厳しさを現していると云える。
このような社会の大きな変化が、ガソリン価格でリッターあたり100円程度で起こっていることであり、欧州並みに200円くらいになったときのアメリカは、大きく変わらざるを得ない状況になってくることだろう。アメリカの知恵の見せ時だし、大統領選挙の動向もしっかりと観測していきたい。
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