Saturday, December 09, 2006

トランス脂肪酸規制へ動くアメリカ

ここ数日のコメントは飲料や食品関係に集中している。もちろん筆者の関心事であるからだと云えばそれまでだが、アメリカにおける食品関係の動きは大きくなってきているのも事実。衛生当局についても、従来は伝染病などの防止や対策が重要な課題だったのが、最近の死亡率は伝染病、衛生面などを遥かに超えて食事を通じた栄養過多や健康に悪影響を与えるような食生活による成人病の方が大きくなってきてしまったことが大きくあるのではなかろうか。

つい先日ニューヨーク市の衛生当局は、同市における25000軒のレストランに対してトランス脂肪酸の利用を無くすように指示した。ニューヨークが動いたとなると、全米の先例になるだけに他の大都市などは戦々恐々だ。アメリカでは、連邦で動くより、市のレベルで、禁煙条例の発令や、シートベルトの装着義務などが始まっている訳であり、トランス脂肪酸などもこの事例で、かなり速い段階で全米ベースに広まると見られている。

トランス脂肪酸は、天然のものではない。人間が約100年前に油を固形化するために植物油に水素を添加して作ったものなので、人工的なものなのだ。最初に商品化したのはCrisco社で、1911年に商品開発されたもの。

トランス脂肪酸とはどのような技術なのだろうか。ニューヨーク市衛生当局のリストを見るとそれがはっきりしてくるらしい。つまり、トランス脂肪酸で作られたものの中に、フライドポテト、タコシェル、ドーナッツ、ピザ生地、クラッカー、クッキー、パイクラストなどがあげられている。これら商品に共通することと云えば、スポンジのように柔らかく始まり、熱を通すとカリッとなると云うことだろう。つまりトランス脂肪酸は、フレーバーではなく、テクスチャーを変える傾向があると云うことだ。やけ上がりが速いために、水分をあまり失わずに焼き上がるのだ。しかも保存期間が長いので、無駄も少ないとなる。

そもそもトランス脂肪酸が普及をしたのは安かったかららしい。1970, 80年代に飽和脂肪が、循環器系に毒だと判った段階で、レストランやメーカーは飽和脂肪を捨て、トランス脂肪酸へと移行した。全米レストラン業界は今回の措置に真っ向から反対しているのは、まさに、トランス脂肪酸の使用があまりにも普及しているからだろうと見られている。

トランス脂肪酸は、飽和脂肪よりタチが悪いらしい。つまり、悪玉コレステロールを引き上げるばかりか、何と、善玉コレステロールも引き下げてしまうのだそうだ。だから、ニューヨークの衛生当局者が云うのには、人工的に作られたトランス脂肪酸は身体に良いことは一つもなく、どんな少ない容量でも身体に害を与えるのだそうだ。天然の脂肪だったら、少しだったら健康的なダイエットの一環としてみていけるのに、健康に百害あるトランス脂肪酸は、今後は喫煙のように抹殺される方向で進むことだろう。

この規制の進む方向はとてつもなく大きな出来事だ。アメリカのファーストフード産業に与える影響は甚大だ。タバコ産業が禁煙運動で受けた影響とは比べ物にならないかも知れない。アメリカの食料油の生産・供給体制がどのようになるのか、供給が足りない現象が起こらないのか、コストの引き上げなどでファーストフード自体にどのように影響を与えるのか、多くの事象が不確定な状況と云える。でも、アメリカの肥満や糖尿病などのインパクトも待ってくれていないので、アメリカの食料事情が大きく変わるきっかけがニューヨークのトランス脂肪酸規制で始まったと云える。

No comments: