アメリカンドリームが直面したもう一つの大きな問題は、資源エネルギー、環境の観点からの消費市場、健康市場の変化と言わなければならない。つまり、アメリカのどん欲とも言えた資源の「浪費」にツケが回ってきたのだ。1972年の有識者のグループであるローマクラブが「成長の限界」と云う報告書を世に出した。この論文は地球環境と人類のシステムがどのように相互に働きかけ合うかを理論的に試算検証したものだった。ローマクラブの経済モデルは、1、世界人口増加率 2、工業化の発展度合い 3、環境公害 4、食料生産 そうして5、資源の枯渇度合いなどについて、相互連関性を計っていくものだった。しかし、このような警告書が出たところで、アメリカンドリームを推進する産業構造は、いったん出来上がると、そう簡単には方向転換できない。巨大タンカーのごとく、舵取りをしても、変化がかなり先にしか出てこないのだった。
「成長の限界」が出された翌年の1973年に世界的な経済後退の原因ともなる第一次オイルショックが発生。石油生産国が、そもそも、自分たちが産出している石油があまりにも安く売られていることに嫌気をさして、供給を抑え、価格上昇へ立ち上がった。その後1979年に第二次オイルショックが発生するなど、生産国側の動きは、否が応でも石油の需給の原理を用いて価格引き上げが行なわれるようになった。石油をはじめとしたエネルギー資源価格は現在も引き続き上昇しているが、その高エネルギーコストにもかかわらず、アメリカ政府は市場の力に任せるなど積極的な省エネ政策には至っていない(ただし、州レベルや市のレベルでは省エネ政策を推進しているところも増えている)。
一つの事例は、クルマの燃費に関するアメリカ連邦政府の姿勢だ。特に1980年にレーガン大統領が選出され、その後、石油産業の関連が深い、ブッシュ親子の大統領の期間が相当長くあったこと、共和党政権が政権の座に占めていた期間が長かったことから企業寄りの姿勢が多く打ち出されていたことも問題をさらに複雑化させている。アメリカの基幹産業として長らく君臨してきた自動車産業が衰退していたことに対して、大型車への依存が高いビッグスリーの商品構成、特にアメリカで言うところのトラックまたは多目的車—SUV(日本ではRV車)への燃費規制を強化しないできた経緯もある。しかし、皮肉なことに政府が省エネ政策を打ち出さなくとも、あるいはアメリカの自動車メーカーが積極的に燃費の良いクルマを出さなかったために、消費者は燃費効率の良い日本ブランドの車両へと徐々にシフトしてきたので、いつの間にかアメリカ市場における輸入ブランドの市場構成は過半数を超えるようになってしまった。
もちろんアメリカの自動車大手3社は、燃費の良いクルマも出している。しかし、問題なのは、それら燃費効率の良いクルマを出しても、マーケティングに対する後押しが利益率の高いクルマに偏重をしていたことが、間接的には販売に悪影響を与えたのだろう。日本車メーカーが、従来の低燃費車に加え、プリウス、シビックなどのハイブリッド車を出していったことも、エコメーカーとしての日本車の地位を引き上げたと言える。最近では日産のリーフ電気自動車やトヨタも燃料電池のクルマを導入すると発表している。アメリカはハイウェーで廻らされた自動車大国だ。ビッグスリーが長いこと君臨してきたその自動車大国でロハス的な商品を提供した日本のメーカーの人気が一般的に高いのはそのためだ。アメリカンドリームをよりグリーンなものにしていく社会的な運動は、消費者が自らの財布を使い、経済産業を動かし始めたと云うことで注目して良い。
クルマほどではないが、やはりアメリカ農業大国において、農業と云う面で影響力を持った日本人がいる。私が住んでいるボールダーコロラドの有機農場のことを取材していたときに、その農家の主が有機農法を目指したのは、ある日本人の影響によるものだと云うことを知らされてびっくりした。ボールダー近隣の農家には絶大な影響力を与えた人として紹介されたのは、愛媛県の福岡正信氏だった(1913年2月生まれ)。英訳された代表的著作の「自然農法・わら一本の革命」は、絶版になっているが、それでもウェブでは数多く紹介されているだけでなく、篤志家のおかげでそれを無料ダウンロードできるようにまでなっている。
先に書いたように、アメリカではロハスと云うコトバの認知は低い。しかし、ロハスの方向へ行っていないかと云えば、そうでは無い。きちんと勢いが出つつあるのだ。まだまだ、アメリカンドリームを夢見る人たちがいる中で、現実と期待値には大きなギャップもあるが、私はアメリカの方向転換に大いに勇気づけられている。まだ、紆余曲折もあろうが、方向が正しいことを祈っている。
世界的に見るとアメリカの相対的な経済力の地位は着実に下がっている。しかしそれが問題だとは思わない。そもそも経済力とは何かを考えていくときに、経済力が環境を破壊するような企業を多く抱えることであったり、国民が高度のストレスを抱えていたり、不健康な農業生産を行なっていたりするのであれば、そのような「経済力」は不健全だ。不要な消費を促し、廃棄物を多く垂れ流し、地球環境を悪化させるような経済の仕組みからの変換脱却が急務と云えよう。人間に幸せを測る尺度は、多くの実験を経て変わらざるを得ない。実質的生活レベルを後退させること無く、地球と共生をして、自らの健康を守り、どのように生きていくか、探るべき時が来た。そうなるとライフスタイルは変わらざるを得ない。アメリカンドリームの要素の根幹は変わっていくことだろう。多くの先陣の努力によってロハスのムーブメントは始まったところだ。